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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)139号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一)(1) 成立に争いのない甲第二号証(本願発明の昭和五七年特許出願公告第四二六五一号公報)によれば、本願発明において用いる溶剤に関しては、本願明細書の特許請求の範囲には、有機溶剤であること、粉末状物質を溶解せず、熱可塑性樹脂を溶解するものであること、並びに熱可塑性樹脂、粉末状物質および非イオン界面活性剤または多価アルコールと共に密閉缶式攪拌混合機内で加熱混合するものであることが限定されているのみであり、また、発明の詳細な説明には、第一表(前記特許公報第二欄第一五行ないし第三欄第一八行)に熱可塑性樹脂と溶剤との具体的な組合せが示されており(第一表中の項目欄右欄の「樹脂」は「溶剤」の誤記と認める。)、さらに、「溶剤は樹脂の融点付近の温度でその樹脂を溶解できる程度の量を使用すればよいが、その使用量は樹脂の種類によつて一般に異なるが樹脂一〇〇重量部当り三〇~一〇〇重量部を一応の目安にして適宜その量を決定すればよい。」(同第三欄第二〇行ないし第二四行)、「前記材料の混練は環境衛生上密閉缶式攪拌混合機を用い、熱可塑性樹脂、有機溶剤、界面活性剤(または多価アルコールあるいはその両者)、気孔形成剤等を一度に仕込んで行つてもよく又は熱可塑性樹脂と有機溶剤とを加熱下に混合後これに気孔形成剤と非イオン界面活性剤または多価アルコールあるいはその両者とを予め混練したものを添加し均一になるまで混練してもよい。いずれの場合も混練時の温度は使用樹脂の融点附近の温度が適当である。」(同第四欄第三一行ないし第四〇行)、「成形物への気孔の形成は、この成形物中の気孔形成剤の性質に応じ水または酸水溶液に浸漬すればよい。この際成形物中の溶剤、界面活性剤または多価アルコールも共に除去することができる。」(同第五欄第九行ないし第一二行)と記載されているが、このほかに、溶剤の使用目的、使用方法、作用についての記載は存しないことが認められる。

以上の認定事実によれば、本願発明において用いる溶剤は、熱可塑性樹脂を溶解する有機溶剤であるが、熱可塑性樹脂を融点附近の温度で溶解させて粉末状物質などとの混練を容易にし、かつ、成形を容易にするものであるというべきである。

原告は、本願発明における溶剤は、混合、成形を容易にするために用いられるだけでなく、成形物を水または酸水溶液に浸漬する際、粉末状物質、界面活性剤などの他の混入物の除去と同時にこれらの混入物と共に除去されるまで成形物中に残留し、他の混入物と共に酸水溶液が入り込む孔(進入路)を確保する作用がある旨主張する。

本願発明の方法による製品は溶剤を含まないものであり、このためには溶剤を除く工程が含まれるべきことが技術常識であることは当事者間に争いがない。しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本願発明において用いる溶剤の除去をどの段階、時期に、どのような方法で行うかについては、本願明細書の特許請求の範囲中に何らの限定も存しないばかりでなく、発明の詳細な説明中にも、原告主張の使用目的、作用を達成すべく、その主張の使用方法として、溶剤を、成形物の水または酸水溶液浸漬工程において粉末状物質、界面活性剤などの他の混入物の除去と同時にこれらの混入物と共に除去されるまで成形物中に残留させる旨の記載は見いだせない。してみれば、前記発明の詳細な説明中の「成形物への気孔の形成は、この成形物中の気孔形成剤の性質に応じ水または酸水溶液に浸漬すればよい。この際成形物中の溶剤、界面活性剤または多価アルコールも共に除去することができる。」との記載も当該浸漬工程において気孔形成剤を除去する際に、成形物中に存在する溶剤、界面活性剤または多価アルコールも共に除去することができることを意味しているにすぎず、この気孔形成剤を除去する時期まで必らず成形物中に溶剤を残留させていることを指しているとは解されない。したがつて、本願発明は、用いる溶剤について、熱可塑性樹脂を融点付近の温度で溶解させて粉末状物質などとの混練を容易にし、かつ、成形を容易にするものという以上に使用目的、使用方法、作用を限定するものではないというべきである。

なお、前記発明の詳細な説明中の記載から明らかなように、本願発明は、成形物を水または酸水溶液に浸漬する工程まで、他の混入物と共に酸水溶液が入り込む孔を確保するに足りる相当量の溶剤を残留せしめる場合もその一実施態様とするものであり、原告主張の溶剤の使用目的、使用方法、作用はこの実施態様について妥当するものであるが、これをもつて本願発明の要旨における溶剤の使用目的、使用方法、作用であると認めることはできないことはいうまでもない。

(2) これに対し、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例記載の発明は、蓄電池の電極板間においてセパレータまたはダイアフラムとして有効に使用することのできる微孔物質の製造に関するものであつて、第一引用例には、「本発明によれば、飽和脂肪酸の構造鎖を有する熱可塑性樹脂であるポリ塩化ビニルに、後に除去されてポリ塩化ビニルに微小気孔を残す物質の微粉末と、一時的にはポリ塩化ビニルの可塑剤として作用し(ポリ塩化ビニルを軟化させ、分散させ、また、容易に除去され得るという意味において)、かつ、前記粉末に悪影響を与えないようなポリ塩化ビニルの溶剤とを混合してドウをつくる。このドウは、所望の形状に形づくられ、溶剤が除去され、次いでドウは固形のポリ塩化ビニルに微孔が形成されるよう粉末を除去するための処理がなされ、そして乾燥される。この微孔物質は、適当な湿潤剤によつて処理することができる。」(第一欄第一八行ないし第三五行)と記載され、この溶剤に関しては、「溶剤の選択は、前に述べたような好ましい作業温度において十分取り扱うことのできるドウが得られるよう、ポリ塩化ビニルを分散し軟化する能力によつて、また、その蒸発の容易さ、押し出され形づくられた材料からの回収の容易さの程度によつてなされる。好ましい溶剤の例は、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンおよびクロロベンゼンである。」(第三欄第四二行ないし第四九行)、「溶剤はストリツプもしくはダイアフラムの製造中にポリ塩化ビニルを分散し軟化させるという点で一時的な可塑剤として作用する利点があり、その後溶剤は除去され、このときにはその多孔質という性質による可撓性が得られる。」(第三欄第五九行ないし第六五行)と記載されていることが認められる。

以上の認定事実によれば、第一引用例記載の発明において用いる溶剤は、シクロヘキサノン等の有機溶剤であり、熱可塑性樹脂であるポリ塩化ビニルを分散させ、軟化させてポリ塩化ビニルと微粉末との混練を容易にし、また、混練したドウの成形を容易にし、その後に成形物から除去されるものであるということができる。

原告は、第一引用例記載の発明における溶剤は、混合、成形を容易にするために用いられるが、それだけではなく、成形に次ぐ独立の工程において蒸発除去され、この時でんぷん粒子溶出口の芽を形成し、これが次のでんぷん粒子の膨潤工程において広げられ、さらにこれに次ぐ工程ででんぷん粒子を溶解する熱い酸が入り込む孔となるという形で後続工程で利用される旨主張する。

第一引用例記載の発明において用いる溶剤が成形に次ぐ工程において除去されることは前記認定のとおりであるが、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には原告主張の形で溶剤除去時に形成される微孔を利用するものである旨の記載は存しないことが認められ、しかも、第一引用例には、溶剤が既に除去された材料を膨潤工程を行うことなく硫酸中を通過させて気孔形成剤としてのでんぷんを可溶化させる態様も開示されていることは、後記(二)(2)において説示するとおりであつて、この態様のものにあつては、膨潤工程を伴わないから、微孔利用の余地もないことを合わせ考えると、原告の前記主張は理由がない。

(3) そこで、前記(1)および(2)の認定事実に基づき、本願発明と第一引用例記載の発明において用いる溶剤の使用目的、使用方法、作用を対比すると、両発明の溶剤は共に熱可塑性樹脂を溶解ないし分散し、軟化させて、粉末状物質などの混練を容易にし、かつ、成形を容易にする有機溶剤であつて、両者の間に実質的な相違があるとは認められない。

原告は、両発明は、(イ)溶剤を除去する独立の工程の有無、(ロ)溶剤除去の時期と方法、(ハ)溶剤除去時に形成される微孔の利用の諸点において相違する旨主張する。

しかしながら、(イ)および(ロ)については、原告の主張は本願発明において用いる溶剤が、成形物を水または酸水溶液に浸漬する際、粉末状物質、界面活性剤などの他の混入物の除去と同時にこれらの混入物と共に除去されるまで成形物中に残留し、他の混入物と共に酸水溶液が入り込む孔(進入路)を確保するものであることを前提とするものであるが、これが本願発明の要旨とする方法の一実施態様にすぎないことは前記(1)説示のとおりであり、溶剤を除去する独立の工程の有無についても、本願発明は、第一引用例記載の発明と同じく、溶剤を除去する独立の工程を行い、かつ、この工程を成形に次ぐ工程で行うものを除外するものでないことが明らかであるから、この点において両発明が相違するものということはできない。また、(ハ)については、第一引用例記載の発明における溶剤除去時に形成される微孔の利用についての原告の主張が理由がないことは前記(2)説示のとおりであり、また、本願発明において溶剤が他の混入物と同時除去されるので、溶剤のあつたところは製品の気孔の一部を形成するとの点も、本願発明の要旨とする方法の一実施態様についてのものであるにすぎない。両発明の溶剤除去時に形成される微孔の利用に差異があるとする原告の主張も採用できない。

したがつて、審決は、両発明の溶剤の使用目的、使用方法、作用についての相違点を看過したものとはいえない。

(二)(1) 前記甲第二号証によれば、本願発明において用いる気孔形成剤である粉末状物質に関しては、本願明細書の特許請求の範囲には、「有機溶剤に不溶性にして水または酸水溶液に可溶性の粉末状物質」と規定されているのみであり、同じく特許請求の範囲に、この粉末状物質等を「混合してなるものを成形して粉末含有成形物となし、この成形物を水または酸水溶液に浸漬し水洗後乾燥する」ことにより多孔性成形物を製造すると記載されており、また、発明の詳細な説明中には、水に可溶性の物質として塩化マグネシウム等の無機化合物、酸水溶液に可溶性の物質として炭酸ナトリウム等の無機化合物がそれぞれ示されている(本願発明の前記特許公報第三欄第四三行ないし第四欄第五行)が、さらに、「前記の有機溶剤に不溶性にして水または酸水溶液に可溶性の粉末状物質の〇・二μ~三〇〇μ粒径のものが目的物の用途に応じて使用することができるから本発明の方法によれば使用した粉末状物質の粒径に相応する孔径の多孔性成形物を製造できる。」(同第四欄第六行ないし第一一行)、「成形物への気孔の形成は、この成形物中の気孔形成剤の性質に応じ水または酸水溶液に浸漬すればよい。」(同第五欄第九行ないし第一一行)と記載されていることが認められ、これらの記載事項によれば、本願発明において用いる気孔形成剤たる粉末状物質は、有機溶剤に不溶性で水または酸水溶液に可溶性の粉末状物質であつて、成形後の成形物から水または酸水溶液への浸漬処理によつて溶出し、成形物を多孔性にする機能を有するものを意味しており、右性質を有することが技術常識からみて明らかなでんぷんをも含むものであり、本願明細書に例示されている前記無機化合物に限定されるものでないことが明らかである。

(2) これに対し、第一引用例には、その第一欄第一八行ないし第三五行に前記(一)(2)において認定した記載があり、この記載は、熱可塑性樹脂であるポリ塩化ビニルに、後に除去されてポリ塩化ビニルに微小気孔を残す物質の微粉末と右粉末に悪影響を与えないようなポリ塩化ビニルの溶剤とを混合してドウをつくり、これを成形し、溶剤を除去し、次いで成形物中の微粉末を除去して成形物中に微小気孔を形成させるという技術的思想を開示しているものである。

そして、前掲甲第三号証によれば、第一引用例は、この技術的思想に基づいて、微粉末にでんぷんを用いることを開示し、「本発明は更に次のように構成される。気孔形成剤としてでんぷんを含有しており、かつ、溶剤が既に除去された材料を、温度九〇~一〇〇度Cで硫酸中を通過させてでんぷんを可溶化させ、その後水洗いして最後に乾燥する。」(第二欄六行ないし第一一行)、「本発明は更に次のように構成される。所望の気孔を形成するためにでんぷんを含有し、かつ、溶剤が既に除去された材料を、まずでんぷんを膨潤させるために沸騰している湯の中に通し(この膨潤の間材料の大きさが増大する。)、次いででんぷんを可溶化する硫酸中を温度九〇~一〇〇度Cで通過させて(中略)最後にストリツプを七〇度Cで乾燥し、所望により切断する。」(第二欄第一二行ないし第二二行)と記載し、これに続いて、「本発明は更に次のように構成される。」として、膨潤を苛性アルカリによつて行う態様(第二欄第二三行ないし第二七行)、最後の乾燥処理前に膨潤剤で処理する態様(第二欄第二八行ないし第三五行)が示されていることが認められ、これらの記載事項は、前記第一欄第一八行ないし第三五行において開示した技術的思想に基づく発明の構成を具体的に明らかにしたものであつて、このうち第二欄第六行ないし第一一行の記載は、当業者に、溶剤が既に除去された材料を膨潤工程を行うことなく硫酸中を通過させてでんぷんを可溶化させる態様を開示していると理解されるものというべきである。なるほど、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の特許請求の範囲第1項ないし第6項には、でんぷんを膨潤する工程を要件とするもののみが記載されていることが認められるから、でんぷんを膨潤する工程を行うことなく多孔質成形物を製造することは、右特許請求の範囲に含まれるものではないが、本願発明が特許法第二九条第二項の規定に該当するかどうかを判断するに当たつて依拠すべき本件出願当時の技術水準を示す引用例の技術内容を認定するに当たつては、当業者が当該引用例の記載事項の全体に基づいてどのような技術的思想が開示されていると理解するかを検討すべきことは当然であり、したがつて、第一引用例の特許請求の範囲に記載されていないからといつて、でんぷんを膨潤する工程を行うことなく多孔質成形物を製造する技術的思想が開示されていないということはできない。

原告は、第一引用例記載の発明においては、膨潤する粒子の混入後、まず溶剤を蒸発除去する工程、次に膨潤工程、その次に気孔形成剤など混入物を除去する工程という一連の工程は不可分のものであり、前記第二欄第六行ないし第一一行の記載は、溶剤を蒸発させた後製品を得るまでの全工程の概要を示したもので、発明に係る方法を具体的に開示したものではない旨主張する。

しかしながら、第一引用例に開示されている技術的思想は前記認定のとおりであり、第一引用例には膨潤工程を行うことなく多孔質成形物を製造することも開示されていることは明らかであつて、第一引用例の第二欄第六行ないし第一一行の記載を原告主張のように解すべき根拠は存しないから原告の前記主張は理由がない。

(3) そこで、前記(1)および(2)の認定事実に基づき、本願発明と第一引用例記載の発明において用いる気孔形成剤を対比すると、本願発明の気孔形成剤はでんぷんを含む点において第一引用例記載の発明と同一であり、また、第一引用例にはでんぷんを膨潤する工程を行うことなく多孔質成形物を製造する技術的思想が開示されているから、膨潤する粒子の使用、膨潤工程の有無について両発明が相違するということはできない。

したがつて、審決は、両発明の膨潤する粒子の使用、膨潤工程の有無についての相違点を看過したものとはいえない。

(三) 原告は、本願発明は、その要旨とする方法により、原告主張(事実摘示第二4(二)<1>ないし<3>記載)の優れた作用効果を奏する旨主張する。

前掲甲第二号証によれば、本願発明は、溶剤の存在下で熱可塑性樹脂の融点付近の温度で混練するものであり、したがつて混練が容易で混練時間が短く、動力の消費も少ないという作用効果を奏するものと認められる。しかしながら、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、「本発明によれば、飽和脂肪酸の構造鎖を有する熱可塑性樹脂であるポリ塩化ビニルに、(中略)微粉末と、一時点にはポリ塩化ビニルの可塑剤として作用し(ポリ塩化ビニルを軟化させ、分散させ、また、容易に除去され得るという意味において)かつ、前記粉末に悪影響を与えないようなポリ塩化ビニルの溶剤とを混合してドウをつくる。」(第一欄第一八行ないし第二九行)、「ポリ塩化ビニルに対して、(中略)でんぷんとポリ塩化ビニルの一時的な可塑剤として作用するメチルシクロヘキサノンのような溶剤とを十分に混合する。この混合は、環流冷却器を付けた閉鎖容器内で高温(例えば八〇~一〇〇度C)で行われ、この熱いドウは(中略)所望の形状とされる。」(第一欄第三六行ないし第四六行)と記載されていることが認められ、また、成立に争いのない乙第二号証の一ないし三(古谷正之著「塩化ビニル樹脂」昭和三六年一〇月一五日日刊工業新聞社発行第六七、第六八頁)によれば、ポリ塩化ビニルは温度が上昇して約八〇度Cの二次転移点(脆化温度)を越えると、軟化し始めるものであることが認められ、これらの事実によれば、第一引用例記載の発明は、熱可塑性樹脂であるポリ塩化ビニルを可塑化する溶剤を使用し、樹脂の融点付近の温度で混練するものであるから、混練時間が短く、動力の消費を少なくすることができるものであつて、本願発明の奏する前記作用効果は、第一引用例記載の発明から予測し得るものにすぎない。

また、原告は、本願発明においては、気孔形成剤を核として気孔形成剤および界面活性剤等による脈状体が形成され、気孔形成剤の抽出が容易かつ完全であるため、抽出時間が短く、抽出率は事実上一〇〇パーセントであり、孔の形状が粒子形を止めない脈状となり、薄手のシートだけでなく一〇mm位の厚物も製造できる旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、原告主張のような脈状体が形成されることについては何らの記載もなく、また、本願発明は要旨において脈状体の形成に必要なだけの溶剤および非イオン界面活性剤の添加量を規定するものでもないことが認められるから、これをもつて本願発明の奏する作用効果ということはできない。そして、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「非イオン界面活性剤または多価アルコールの使用量を加減することにより成形物中に生ずる気孔の大きさを調節できる。」(第三欄第三五行ないし第三七行)と記載され、また、実施例7には肉厚一〇mmの厚物を製造できる旨の記載があることが認められ、このような厚物を製造できるということは気孔形成剤の抽出率が高いことを示しているものと推認されるが、これらの作用効果は格別のものとは認められない。すなわち、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例記載の発明は細孔を有する合成樹脂の製造方法に関する発明であつて、第二引用例には、「本発明は非イオン界面活性剤の添加量の増減に応じて得られる合成樹脂の細孔の径を制御できるという極めて有利な効果がある。即ち本発明において熱可塑性合成樹脂に対する非イオン性界面活性剤の添加量(中略)二〇部/樹脂一〇〇部を越えると無機充填剤の抽出率はほぼ一〇〇%になるばかりでなく、添加量の増大に応じて用いた無機充填剤の径よりも大きな細孔を有する合成樹脂を得ることが出来る。」(第四〇二頁右上欄末行ないし左下欄第一二行)と記載されていることが認められ、この記載事項および無機充填剤の抽出率が向上するということは厚物の製造の可能性を示唆するものであることによれば、本願発明の奏する前記作用効果は第二引用例記載の発明から予測し得るものにすぎないというべきであつて、前記作用効果のうち本願発明の方法により肉厚成形品が得られる点について格別顕著であることができないとした審決の認定にも誤りはない。

さらに、前掲甲第二号証によれば、本願発明においては、材料の混合を密閉式攪拌混合機で行うため、作業環境を改善し、作業環境を良好に保つことができることが認められるが、第一引用例記載の発明においても、材料の混合を還流冷却器を付けた閉鎖容器内で行うことは前記認定のとおりであつて、溶剤を逸散させることがなく、作業環境を良好に保つことができることは明らかであるから、この作用効果も第一引用例記載の発明から予測し得るものにすぎない。

したがつて、本願発明の奏する作用効果は、いずれも、第一引用例記載の発明または第二引用例記載の発明から当業者において通常予測し得る範囲のものにすぎず、これをもつて格別顕著なものとすることはできない。

(四) 以上のとおりであつて、審決は、本願発明と第一引用例記載の発明とを対比するに当たり、原告主張の相違点を看過したものとはいえず、また、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過、誤認したものともいえないから、審決には原告の主張する違法はない。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

熱可塑性樹脂、有機溶剤に不溶性にして水または酸水溶液に可溶性の粉末状物質、非イオン界面活性剤または多価アルコール、および前記樹脂の有機溶剤を、密閉缶式攪拌混合機内で前記樹脂の融点付近の温度にて加熱して混合してなるものを成形して粉末含有成形物となし、この成形物を水または酸水溶液に浸漬し水洗後乾燥することを特徴とする熱可塑性樹脂の多孔性成形物の製法。

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